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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ツ)22号 判決 1980年2月22日

上告人 田島暁 外二名

右三名訴訟代理人 中村護 外一〇名

被上告人 松岡きく 外一二名

右一三名訴訟代理人 泉博 外三名

被上告人 市川幹重

主文

原判決中被上告人市川幹重の請求に関する部分及び同被上告人を除くその余の被上告人らの請求に関し上告人ら敗訴部分を破棄する。 被上告人市川幹重を除くその余の被上告人らの請求に関する右部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

本件訴訟のうち被上告人市川幹重の請求に関する部分は、昭和五〇年八月三〇日同被上告人の死亡により終了した。

理由

上告代理人中村護、同三浦喜代治、同小野允雄、同石川隆、同榎本孝芳の上告理由第一点について

原審の確定した事実関係及び本件記録に現われた本件訴訟の経過によれば、被上告人らが本件土地の売買契約締結についての違法、代金支払の違法を指摘して是正措置を求めた本件監査請求については、その代金調達の違法及びその是正措置をも合わせて対象としていると解しえないことはない。したがつて、本件利息の違法な支払を理由とする上告人らに対する損害賠償請求につき、被上告人らが監査請求を経ているといえないことはなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

原審の確定した事実関係のもとにおいて、本件利息の支払が違法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第五点及び第七点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第六点について

原審の確定した事実関係によれば、国立町は本件土地の売買代金支払にあてるため、昭和三八年三月一一日から同年一二月二七日までの間に訴外多摩中央信用金庫から総額一億二三八四万五〇〇〇円を利息日歩二銭一厘ないし二銭三厘の約定で借り入れ、借入時から昭和四二年三月二三日までの利息を同信用金庫に支払つたというのであり、右消費貸借及びこれに附随する利息支払の約定は、昭和三八年法律第九九号地方自治法の一部を改正する法律の施行(昭和三九年四月一日)前に成立しているのであるから、本件利息の支払に伴う上告人佐伯の賠償責任については、同法律附則一二条の規定により、改正後の地方自治法の二四三条の二の規定にかかわらず、なお従前の例によるものと解するのが相当である。したがつて、同条の規定の適用のあることを前提とする論旨は理由がなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について

原審が確定した事実の要旨は、(1) 国立町は、昭和三八年一〇月一日、訴外大村建材株式会社から本件土地を公共用地として取得するについて、町議会の議決を経たうえ、これを買受ける旨の売買契約を締結した、(2) 国立町は、購入代金の支払にあてるため、多摩中央信用金庫から総額一億二三八四万五〇〇〇円を利息日歩二銭一厘ないし二銭三厘の約定で借り入れ、これを同年一二月二七日までに大村建材株式会社に支払つて本件土地を取得した、(3) 国立町は、借入時から昭和四二年三月二三日までの利息合計三二六三万九七一九円(以下「本件利息額」という。)を同信用金庫に支払つた、(4) 本件借入れは、地方自治法に定める地方債又は一時借入金の方法によるものではなかつた、というのである。

原審は、右の事実関係のもとにおいて、本件借入れは地方自治法に定める地方債又は一時借入金のいずれの方法にもあたらない違法な措置であり、右違法な借入れに基づく本件利息の支払も違法であるから、国立町は本件利息額相当の損害を受けた旨判断した。

ところで、右の事実関係によれば、国立町は本件土地の購入代金支払のため会計年度を超える長期資金の借入れを必要としていたところ、国立町が地方債を起こし資金を調達したとしても利息等の費用の負担を余儀なくされるのであるから、本件利息額の全額を国立町が受けた損害と解すべきではなく、地方債の発行に伴い国立町が通常負担するであろう利息等の費用に相当する額は、損害にあたらないものと解するのが相当である。したがつて、前記の事実関係から直ちに、国立町が本件利息額相当の損害を受けたと判断した原判決は、法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽の違法があるといわざるをえず、右違法は原判決中判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして更に審理を尽くさせる必要があるから、被上告人市川幹重を除くその余の被上告人らの請求に関する右部分につき、本件を原審に差し戻すのが相当である。

職権をもつて調査するに、記録によれば、被上告人市川幹重は昭和五〇年八月三〇日死亡していることが明らかである。地方自治法二四二条の二に規定する住民訴訟は、原告が死亡した場合においては、その訴訟を承継するに由なく、当然に終了するものと解すべきであるから、本件訴訟中被上告人の請求に関する部分は、その死亡により当然に終了しているのであり、これを看過してなされた原判決は破棄を免れない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶)

上告代理人中村護、同三浦喜代治、同小野允雄、同石川隆、同榎本孝芳の上告理由

原判決は次の諸点につき判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

第一点本件訴訟は地方自治法二四二条の監査請求を経ない事項について判決した違法がある。原判決は本件借入金は違法であるからこれにつき支払つた利息も違法というべく、上告人らは国立市に対し右支出した利息相当額の賠償をなす義務がある旨認定するとともに、被上告人らは昭和三九年九月三〇日国立町監査委員に対し右利息相当額の損害を補填するため必要な措置を講ずべきことを請求したというのであるが、同日そのような監査請求はなされていない。同日付の監査請求書(甲第一号証)によれば、その請求内容は要するに本件土地売買契約が違法であるから上告人らに対しその支出した売買代金を国立町に補填させよというものであり、本件借入金並びに利息に関しては何等の監査請求もなされていないのである。上告人らは答弁として単に甲第一号証(監査請求書)記載内容の監査請求がなされた事実を認めたのみで、本件借入金並びに利息に関し昭和三九年九月三〇日被上告人らより監査請求がなされたことを自白したものではない(記録上明らか)。この点原判決には法令違反がある。結局、原判決は地方自治法二四二条に定める監査請求を経ない事項につき判断したものに帰し、訴訟要件を具備しないものであるから本件訴は却下せらるべきである。

第二点原判決は「国立町においては昭和三九年度から昭和四一年度まで毎年度の一般会計予算書に本件土地買収のための借入金に対する当該年度の利息を歳出として計上し、同町議会の議決を経ていることが認められるけれども、基本たる借入れそのものが違法である以上右利息の支払いが適法となるものではない」と判断している。しかしながら、少くとも利息の支払いについては歳出として議会の議決を経ているのであるから、その議決の当否を論ずるのは格別として、本件利息が議決された予算の執行として支出された以上適法なものであること当然である。この点に関する原判決の判断には法令の違背がある。

第三点本件土地の買収については予算外義務負担行為若しくは債務負担行為として町議会の議決を経ており、同議決に基いて本件土地の売買契約が締結された以上町長としてはその代金支払いに必要な資金を調達しなければならない義務があつた。ところで、当時国立町の財政は一般歳入をもつて右代金の支払いに当てる余裕はなく、結局町として借入金に頼るほかはなかつたのである。この場合、地方債を起こすことは事業内容、限度額等の関係から困難があり、やむなく多摩中央信用金庫より本件借入れをしたものである。ところで、借入れが地方自治法に定める起債若しくは一時借入金の方法によつたとしても利息の支払は余儀ないものであるから、仮に本件借入れが違法であるとしても、元来利息の支出は必要な費用に属するものであるから本件利息の支出をもつて直ちに国立町にこれと同額の損害を与えたものとはいえないのである。この点利息の支払いをもつて直ちにこれと同額の損害を町に与えたとする原判決には審理不尽の違法並びに法令違背がある。

第四点上告人らの損害相殺の主張を排斥した原判決には法令の違背がある。

国立町は多摩中央信用金庫よりの本件借入れにより同金庫に対し借入金債務とこれにともなう利息金債務とを負担し、この負担により本件土地を取得したものである。利息は右借入れにともない必然的に発生するものであり、右借入金が本件土地取得のためなされたものである以上その利息も本件土地取得のため使われた金員と認めるべきである。即ち、経済上の損益の点から価値の変化をみれば、借入金と利息の合計額の価値が本件土地に変り、この土地が他に高価に売却されることにより売却代金の価値に変化したものであつて、この一連の経済的価値変動の中で国立町の受けた利益を考えなければならないのである。しかるに、原審は借入金と利息とを分離し、借入金は本件土地取得代金に使われたが、利息は多摩中央信用金庫に支払われたもので、本件土地の取得及び他への売却との間に相当因果関係がないと判示している。しかし、これは誤りである。国立町が本件土地を取得したのは借入金を本件土地の売主に支払つたからであることは勿論であるが、右支払いができたのは国立町が多摩信用金庫から金員を借りたからであり、本件土地取得と国立町の多摩信用金庫に対する借入金とは相当因果関係があるのである。しからが右借入に必然的にともなう利息債務と本件土地取得ともまた相当因果関係があるといわなければならない。

故に国立町は多摩中央信用金庫に対する借入金債務及び利息債務を負担することにより本件土地を取得し、これを他に高価に売却してその代金を取得したものであるから、右債務の負担と右売却代金の取得とは相当因果関係があり、しかも売却代金額が町の負担した債務額を超える限り国立町には損害は発生していないといえるのである。

第五点原判決によれば上告人らは少くとも過失により本件利息の違法支出をしたというのであるが、本件利息の支出は予め予算上の措置をとり議会の議決を経たうえでの支出であるから上告人らに過失があつたとすることはできない。この点原判決には法令の違背がある。

第六点原判決は上告人佐伯は収入役として町長の違法な支出命令に従つてはならないのに(同法第二三二条第二項)すくなくとも過失により右命令に応じてその支払いをしたものとして本件損害に対する賠償を命じている。然しながら、右利息の支払いは前記のとおり議会の議決を経た予算の執行としてなされたものであるから収入役の右支出は適法行為であると考えられるが、仮に右支出が違法であり且つ過失責任があるとしても、本件利息の違法支出については収入役は地方自治法第二四三条の二の一項二号等に該当する行為として同条に基いてのみ損害賠償義務を負担するものである(同条九項)と解すべきところ、同条によれば故意又は重大な過失による場合にのみ責任を負わされるのであり、又その賠償については町長は監査委員に対し賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき期限を定めて賠償を命じることになつている。

しかるに本件については右監査委員の手続を経由していないから上告人佐伯に対する損害賠償請求権は具体的に発生していない。よつて原判決には法令の違背がある。

第七点原判決は上告人今井に関し、同人は助役として町長を補佐し、収入役の事務を監督すべき職責があるのに、右違法支出につきすくなくとも過失によつてその職責をつくさなかつたものとしてその賠償を命じている。

然しながら収入役に対して本件利息の支出を命じたのは町長田島守保であり、上告人今井ではない。上告人今井が町長の収入役に対する右支出命令を知りながら、何等収入役に対し注意を与えなかつたからといつて、それだけで違法行為者として右支出につき町長及び収入役と連帯して賠償義務を負担するいわれはない。従つて、甲第二号証の監査請求にも助役は対象となつていないのである。この点原判決には法令の違背がある。

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